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東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)93号 判決 1989年2月16日

東京都千代田区平河町一丁目九番三号

原告

破産者日本興業株式会社破産管財人

早川忠孝

右訴訟代理人弁護士

河野純子

東京都千代田区神田錦町三丁目三番地

被告

神田税務署長

川平一夫

右指定代理人

西口元

安達繁

藤田忠志

島田明

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が日本興業株式会社(以下「日本興業」という。)の昭和五六年一月から同年六月まで、同年七月から同年一二月まで、昭和五七年一月から同年六月まで、同年七月から同年一二月まで、昭和五八年一月から同年六月まで、同年七月から同年一二月まで、昭和五九年一月から同年六月まで、同年七月から同年一二月までの各期間分の源泉徴収に係る所得税について昭和六〇年一一月七日付けで原告に対してした各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分(ただし、いずれも審査裁決により取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六〇年九月三〇日東京地方裁判所において破産宣告を受けた日本興業の破産管財人である。

2  被告は、原告に対し、昭和六〇年一一月七日付けで、日本興業が、同社代表取締役である尾前義圀(以下「尾前」という。)及び取締役である尾前せつ(以下「せつ」といい、尾前義圀、尾前せつ両名を「尾前ら」という。)に対し昭和五六年一月から同五九年一二月までの間に役員報酬合計一億八二七五万一〇七六円を支払つたものとして、役員報酬の源泉徴収に係る所得税六三三九万二七六一円の納税告知処分及び不納付加算税六三三万五〇〇〇円の賦課決定をしたが、原告は、別紙1記載のとおり、これらに対する異議申立て、審査請求を経由し、国税不服審判所長は同別紙「同裁決」欄記載の審査裁決をした(以下、審査裁決で一部取り消された後の納税告知処分及び不納付加算税賦課決定処分を「本件処分」という。)。

3  しかしながら、本件処分は、日本興業が尾前らに前記報酬を支払つていないにもかかわらず、被告は右支払の事実があつたものと誤認した違法がある。

4  よつて、原告は、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び同2の事実は認める。

2  同3の事実は否認する。

三  被告の主張(本件処分の根拠及び適法性)

1(一)  尾前の昭和五五年四月分役員報酬二〇〇万円のうち、二四万八九二四円は、昭和五五年一二月までの間に同人に支払われ、これに係る源泉徴収による所得税は、その法定納期限である昭和五六年一月一〇日に納付済みであり、右役員報酬を差し引いた昭和五五年四月分から昭和五九年三月分まで合計一億八二七五万一〇七六円(以下「本件役員報酬」という。)は、別紙3の1及び同3の2のとおり、尾前らに対し、昭和五六年一月から五九年一二月までの間に別紙2の役員報酬として全額が支払われ、同人らはこれを受領した。なお、右別紙3の1及び同3の2は、各事業年度ごとに、前事業年度末における未払役員報酬の額に各事業年度の役員報酬の計上額を加えた額から各事業年度末における未払役員報酬の額を差し引くという方法で、各事業年度中に支払われた役員報酬の額を算出し、これを基に、本件役員報酬が支給対象月の古いものから順次均等に支払われたものとして、日本興業の所得税法二一六条に規定する納期に合わせて計算し作成したものである。

(二)  役員報酬を支払つた場合には給与等の支払者がその支払の際所得税を徴収し、その徴収した所得税を翌月一〇日までに国に納付しなければならない(所得税法一八三条一項)が、日本興業は、納期の特例についての税務署長の承認(所得税法二一六条)を受けているので、一月から六月まで及び七月から一二月までの各期間において支払つた給与等に係る源泉徴収による所得税を当該各期間に属する最終月の翌月一〇日(同日が休日に当たる場合は翌日)までに国に納付することになる。

(三)  そこで、日本興業が納付すべき本件役員報酬に係る所得税額を所得税法(昭和五五年法律第八号による改正後のもの)別表第四により計算すると、別紙3の1及び同3の2のとおり、合計六二二〇万八四二六円となり、各支払期間に対応する法定納期限までにこれを納付すべきところ、日本興業はこれを納付しなかつた。

(四)  よつて、被告は、所得税法一八三条一項に基づき、本件役員報酬に係る所得税を原告から徴収することとし、国税通則法三六条一項に基づき昭和六〇年一一月七日付けで右税額と同額の本件の納税告知処分(審査裁決で一部取り消された後のもの)を行つたものであるから、同処分は適法である。

2  被告は、日本興業が源泉徴収による本件役員報酬一億八二七五万一〇七六円に係る所得税額六二二〇万八四二六円を法定納期限までに納付しなかつたことから、国税通則法六七条一項の規定に基づき、各法定納期限の右源泉徴収による所得税額(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満切り捨てた額)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した額の合計金額六二一万六〇〇〇円を不納付加算税としたものであるから、本件の不納付加算税賦課処分は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1(一)  被告の主張1(一)の事実中、尾前の昭和五五年四月分役員報酬の二〇〇万円のうち、二四万八九二四円は、昭和五五年一二月までの間に同人に支払われ、これに係る源泉徴収による所得税は、その法定納期限である昭和五六年一月一〇日に納付済みであることは認めるが、右役員報酬を差し引いた一億八二七五万一〇七六円の本件役員報酬が、別紙3の1及び同3の2のとおり尾前らに対し、昭和五六年一月から五九年一二月までの間に全額が本件役員報酬として支払われ、同人らが受領したことは否認する。

(二)  同1(二)は認める。

(三)  同1(三)の事実中、日本興業は合計六二二〇万八四二六円を法定納期限までに納付しなかつたこと、被告は、所得税法一八三条一項に基づき、本件役員報酬に係る源泉徴収による所得税を原告から徴収することとし、国税通則法三六条一項に基づき昭和六〇年一一月七日付けで右税額と同額の本件の納税告知処分(審査裁決で一部取り消された後のもの)を行つたことは認め、その余は争う。

2  被告の主張2の事実中、日本興業が源泉徴収による本件役員報酬一億八二七五万一〇七六円に係る所得税額六二二〇万八四二六円を法定納期限までに納付しなかつたことは認め、その余は争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1及び2は、当事者間に争いがない。

二  本件の争点は、本件役員報酬が、昭和五六年一月から五九年一二月までの間に別紙3の1及び同3の2のとおり、日本興業から尾前らに対し全額支払われた事実が認められるか否かであるので、この点につき判断する。

成立に争いのない乙第一ないし第四号証、乙第七ないし第一四号証、原本の存在及びその成立につき争いのない乙第五、六号証及び弁論の全趣旨によれば、日本興業は、昭和五五年四月から同五六年三月まで、昭和五六年四月から同五七年三月まで、昭和五七年四月から同五八年三月まで、昭和五八年四月から同五九年三月までの各事業年度において代表取締役尾前らに対する役員報酬として、別紙2のとおり合計一億八三〇〇万円を損金に計上したこと、尾前らは、昭和五五年分ないし同五九年分の各年分の所得税確定申告に当たり、清水税理士関与のもとに、右役員報酬の額は支払を受けるべき権利が確定したものとして、それぞれ所得金額に含めて記載した確定申告書を提出したことが認められる。また、証人清水啓伍の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一ないし四七、成立に争いのない甲第四号証の一ないし六、前掲乙第一ないし第四号証、乙第一三号証、成立に争いのない乙第一五ないし第一七号証並びに証人清水啓伍及び同尾前義圀の各証言によれば、日本興業では、現金の入出金の際には、従業員が入金伝票及び出金伝票を作成し、それを基にコンピューターを使用して日計表を作成して、これをもつて金銭出納帳に代え、毎日閉店後、右日計表に記載されていた現金残高と実際の現金有高とを突き合わせて、不突合があればその日のうちに解明していたこと、尾前は、役員報酬を受領する都度、日本興業の経理担当社員であつた新田康雄に命じ、その受領額を未払役員報酬の残額を管理する帳簿に記帳させていたこと、尾前らは、昭和五五年分ないし同五九年分の各年分の所得税確定申告にあたり、清水税理士関与のもとに、本件役員報酬の額は支払を受けるべき権利が確定したものとしてそれぞれ所得金額に含め確定申告書を提出したが、その際、役員報酬に係る源泉徴収額を記載した源泉徴収票を右各年分の確定申告書に添付し、右源泉徴収票に記載された税額を控除したうえ確定申告に係る所得税額を計算していること、清水税理士は、日本興業が作成した日計表及び出入金伝票を基に毎月総勘定元帳及び経費内訳帳を作成し、決算時においては右総勘定元帳から試算表を作成し、尾前の確認をとり、計算上の誤り等を正しながら、決算調整を行つた決算書を作成し、さらに右決算書を基に確定申告書を作成していたこと、その際、清水税理士は、日計表の出金額のうち「カンリヒ ミバライ オマエ」と摘要欄に記載のあるもの及び日本興業の経費に含まれていた尾前の家事関連費分を役員報酬の支払額とするとともに、役員報酬の未払額については各事業年度の決算書の貸借対照表に未払費用として計上したこと、昭和五九年一〇月二九日の時点において、清水税理士が作成した総勘定元帳の未払費用の残額がマイナスになつていること、また、清水税理士は、日本興業の源泉徴収による所得税の六か月の納期ごとに各支払期間中に支払われた役員報酬の額及び右役員報酬の支払額に対応する源泉徴収による所得税の額を計上し、納付すべき源泉所得税額等及び右支払われた役員報酬の支給対象月等を記載した納付書を代表者である尾前に渡していたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定事実によれば、別紙3の1及び同3の2記載の本件役員報酬は、昭和五六年一月から同五九年一二月までの間に尾前らに全額支払われたものと認めるのが相当である。そして、弁論の全趣旨によれば、原告が破産管財人に選任されて日本興業に赴き、関係書類の確保、整理に当たつたが、商業帳簿、株主総会議事録等の書類は所在自体すら明らかではなく、給与台帳も存在しなかつたことが認められ、現に、本件訴訟には、昭和五九年一月分の日本興業の日計表、昭和五九年度の総勘定元帳の一部が書証として提出されているだけで、別紙3の1及び同3の2のとおりに本件役員報酬が支払われたことを立証する直接の証拠はないが、このように帳簿類が散逸していて具体的にいつ右役員報酬が支払われたかを立証することができない場合には、その支払われた時期については、合理的な推定を基礎として課税することが許されるものと解すべきである。しかして、弁論の全趣旨によれば、別紙3の1及び同3の2は、各事業年度ごとに、前事業年度末における未払役員報酬の額に各事業年度の役員報酬の計上額を加えた額から各事業年度末における未払役員報酬の額を差し引くという方法で、各事業年度末に支払われた役員報酬の額を算出し、これを基に、本件役員報酬が支給対象月の古いものから順次均等に支払われたとして、日本興業の所得税法二一六条に規定する納期に合わせて計算し作成したものであることが認められるのであり、各係争年度中のいかなる月日にいくらの金額が支払われたかについて各事業年度毎に全期間にわたつて直接立証する証拠がないことは前記のとおりであるから、各係争年度中の給与の支払は、特段の事情の認められない本件では、年度の前半六か月と後半六か月とでそれぞれ均等に支払われたものと推定するのが相当であるところ、被告は、別紙3の1及び3の2記載のとおり、各係争年度について、いずれも年度の後半六か月に当該年度支払の給与の大半が支払われたものとして、その税額を計算すべき旨を主張するが、これは、年度の後半六か月の間には遅くともその分の支払があつたものとして課税すべきであるとするものであるから、日本興業にとつてむしろ有利であつて、このような課税方法も許されないではないというべきである。もつとも、前掲甲第三号証の一ないし四七、甲第四号証の一ないし六、乙第四号証、乙第一三号証並びに証人清水啓伍及び同尾前義圀の各証言によれば、日本興業の役員報酬は定時には支払われていなかつたこと、日本興業は、尾前らに対する役員報酬の源泉徴収額を預かるという会計処理を行つていないこと、日本興業は、昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度には一億五二七九万二四五五円もの欠損金額を出すに至つていること、日本興業の昭和五九年事業年度の総勘定元帳の「未払費用」の摘要「尾前義圀」の「借方」には一円単位の端数のある金額が記載されているが、昭和五九年の尾前の確定申告書の役員報酬額の記載は六〇〇万円であること、昭和五九年一月分の日計表の管理費の支出については、一回を除き尾前の支出分とせつの支出分との区別がされていず、単に「オマエ」との記載があるだけであること、昭和五九年事業年度の総勘定元帳の「未払費用」についても、すべて人名は「尾前義圀」と記載されていること、せつは、日本興業の経理担当の新田康雄から直接役員報酬を受領したことはないこと、以上の事実が認められる(尾前せつの証言中、右認定に反する部分はにわかに措信できない。)。しかしながら、他方、前掲甲第三号証の一ないし四七、甲第四号証の一ないし六、乙第一ないし第四号証、乙第一三号証、乙第一五ないし一七号証並びに証人清水啓伍及び同尾前義圀の各証言によれば、日本興業では、資金繰りの都合で、役員報酬は計上月より遅れて支払われており、右役員報酬をいつたん未払役員報酬(未払費用)に計上し、役員報酬が支払われる都度、右未払役員報酬の額を減額する経理処理を行つていたこと、尾前は、日本興業の資金に余裕ができたとき等において、本件役員報酬を現金で引き出していたが、その際、尾前は、「未払い 尾前」叉は「管理費 未払い 尾前」と摘要欄に記載した出金伝票を作成していたこと、日本興業では、役員報酬以外の社員の給与については所得税を源泉徴収していたが、本件役員報酬については、以前行われた税務調査の結果に対する尾前の税務署への不満から、厳密な所得税の源泉徴収をしておらず、尾前らは、税額を控除しない役員報酬の計上額に至るまでの金額を役員報酬として受領していたこと、日本興業は、昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度にオービックから一億円を借り入れて、役員報酬の支払に充てていたこと、昭和五九年分の尾前の確定申告書は同年一月一日から一二月三一日までの役員報酬の合計を記載しているものであるが、日本興業の昭和五九年事業年度の総勘定元帳の「未払費用」は昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日までの期間を記載したものであること、せつの役員報酬は、尾前が同人の分と区別せずにまとめて受領し、この中から尾前がせつに同人の分を渡していたこと、以上の事実が認められるから、前記認定の事実をもつてしても、本件役員報酬が全額尾前らに支払われた事実を覆すに足りないものといわなければならない。

以上によれば、本件役員報酬は、別紙3の1及び同3の2の各「支払期間」欄記載の期間中に、「支払期間」にそれぞれ対応する各「支払対象月」の「支給額」欄記載の金額の合計額が尾前及びせつに対してそれぞれ支払われたものと認めて課税するのが相当である。

そして、日本興業が納付すべき本件役員報酬に係る所得税額を、所得税法(昭和五五年法律第八号による改正後のもの)別表第四より計算すると、別紙3の1及び同3の2の「源泉所得税の額」欄記載のとおり合計六二二〇万八四二六円となるから、本件納税告知処分は適法である。

三  右のとおり、日本興業は、本件役員報酬に係る源泉徴収による所得税をその法定納期限までに納付しなかつたのであり、右納付しなかつたことにつき正当な理由があるとは認められないから、国税通則法六七条一項の規定に基づき、各法定納期限の右源泉徴収による所得税額(国税通則法一一八条三項の規定により一万円未満を切り捨てた額)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した額の合計金額六二一万六〇〇〇円を不納付加算税額とした本件不納付加算税賦課決定処分も適法である。

四  よつて、本件処分は適法であり、原告の本件請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宍戸達徳 裁判官 北澤晶 裁判官 生野考司)

別紙一

本件納税告知処分等の経緯

<省略>

別紙二

尾前らの役員報酬計上額の事業年度ごとの内訳

<省略>

(注) 昭和56年4月から同57年3月までの事業年度中の同56年7月から、尾前義圀の役員報酬が、月額100万円増額されている。

別紙3の1

本件役員報酬に係る源泉所得税額

<省略>

別紙3の2

<省略>

(注1) 源泉所得額の計算にあたり適用した税額表等は次のとおりである。

尾前義圀 … 税額表の適用にあたっては、各支給対象月の役員報酬額から社会保険料を控除した額を基礎とした。

支給対象月から昭和55年4月から同年12月までについては税額表の「月額表乙欄」を、その余の支給対象月については税額表の「月額表甲欄扶養親族等の数4人」をそれぞれ適用した。

尾前せつ … すべての支給対象月について税額表の「月額表甲欄扶養親族等の数0人」を適用した。

(注2) 支給対象月が昭和55年4月及び同56年5月の役員報酬については、両名分ともその支払いが二つの支払い期間に別れているため、支払期間ごとの源泉所得税額の計算にあたっては、1ヶ月当たりの源泉所得税額をそれぞれの支払期間中の役員報酬の支払額に応じて按分した。

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